

不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
㈱船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。 http://yoshizakiseiji.com
【第22回】賃料上昇が投資マンション価格上昇分を吸収する?
2024年2月
2022年に入ってからの物価上昇傾向はすでに2年におよび、我々の日常は「新しい物価水準」で過ごす日々となっています。
日銀が示していた「安定的に2%程度の物価上昇」、つまりデフレ脱却状況となっており、あとは「実質賃金がプラス圏に入る」などいくつかの条件が整えば、金融緩和政策を緩やかに解除、長期間続いた超低金利でしたが、少し上昇しそうな状況となってきました。
マンション建設工事費はさらに上昇可能性
物価の上昇とともに住宅賃料(家賃)の上昇も続いています。「【第19回データで解説!「いまが買い時?」投資用マンション価格は今後も上昇の可能性あり】」でもグラフを用いながら解説しましたが、建設工事費の高止まりは続いており、さらに24年4月からは建築現場でも「働き方改革」が導入され、労働時間の制限がかかる事で人件費が増え、これまでの原材料費上昇起因の工事費上昇に加えて、人件費(=サービス費)上昇という要因も加わり、とくにマンション建築などで主流のRC系建築の工事の上昇幅はさらに大きくなるものと思われます。
そのため、工事費の上昇に加えて、地価上昇やマンション適地の不足に伴うマンション用地の仕入価格が上昇していますので、実需用、投資用マンションとも価格上昇は、少なくともしばらく続くでしょう。
賃料の上昇要因
賃料の上昇は、物価に遅れて連動します。このベースに加えて、需給のバランスなどの要因で家賃上昇が起こります。また、これは物価上昇要因に含まれるといっていいかもしれませんが、世帯における可処分所得の増減により決まります。たとえば、需給バランスの例として、このところ都市部では、マンション価格上昇にともない、マンション購入を控え、賃貸住宅を借りる方が増えた事で、ファミリータイプの賃貸物件の需要が増え、同タイプの家賃はかなり上昇しました。
賃料上昇の現状
2013年以降、実需用マンション、投資用マンションの価格が上昇している割には、都市部での賃貸住宅の賃料(家賃)は、その上昇幅は、比較すれば少ない状況が続きました。
しかし、先に述べたように、主に分譲マンション賃貸などが多いファミリータイプ物件の賃料は、需要が増えたこと、そして世帯年収が増え処分所得が増えていること等の要因で21年以降上昇しています。また、主に単身世帯がターゲットのワンルーム・コンパクトタイプの物件の賃料も22年以降、上昇が鮮明になってきました。この傾向はしばらく続くものと思われます。
賃料データは公表データが少ないのですが、上昇しているREIT銘柄はかなり細かく情報を開示しています。たとえば、賃貸住宅100%のJREIT銘柄であるコンフォリア・レジデンシャル投資法人(3282)の資産運用報告書(最新の23年7月期。次回は24年1月期、資料公開は例年3月末)をみると、このREITの保有賃貸住宅は東京23区内が90.7%、部屋はほとんどがワンルームかコンパクトタイプとなっています。同報告書によれば、入れ替え時賃料変動率は、23年7月期で4.6%の上昇、前期(23年1月期)が2.5%の上昇、前々期(22年7月期)が0.8%の上昇ですから、この1年間で上昇率が伸びていることが分かります。一方、更新時賃料変動率は、23年7月期は0.5%の上昇、前期(23年1月期)は0.3%の上昇、前々期(22年7月期)が0.3%の上昇でしたので、継続賃料も着実に上がっていることがわかります。
賃料上昇が投資用マンション価格上昇を吸収する理屈
さきに述べたように、24年以降もマンション価格の上昇は続くことは確実と思われますが、投資用マンションの場合は、ここまで述べたように家賃上昇の期待があり、マンション価格(=投資家価格)が上昇する分は、ある程度は吸収できるものと思われます。
投資用不動産の理論価格を算出する収益還元法では、NOI÷利回り(キャップレートなどを用います)=不動産価格の計算式で算出します。このうち、賃料が上昇することで、賃料から必要経費を引いたNOIが増えれば、利回りが一定量とすれば理論価格は上昇します。つまり、賃料上昇が理論価格を押し上げた、ということになります。もちろん、この理屈は、賃料の上昇、必要経費の上昇、金利の変動、などの幅にもよりますが、吸収可能性が高いと思います。
このように「投資用マンションの価格が上昇しても、賃料上昇の期待があれば、吸収することが可能」といえそうです。
ただし、そのためには「賃料がこれからも上昇しそうな物件を購入する」ということが条件となることは、いうまでもありません。
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