不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
㈱船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。 http://yoshizakiseiji.com
【第12回】コロナショックでも価格上昇が止まらない投資用マンション市場。不動産価格指数で解説
―最新の国土交通省不動産価格指数
―信用性が高く実態に近い指数
―東京の区分マンション不動産価格指数の推移
―1棟マンションの不動産価格指数の推移
―2025年を見据えた2つのポイント
「住宅価格はコロナショックの影響がほとんどない。」多くの不動産業界関係が口をそろえて言っています。
国土交通省による「不動産価格指数」は、年間約30万件の不動産の取引価格情報をもとに、全国・ブロック別・都市圏別・都道府県別に不動産価格の動向を指数化し、毎月月末に公表しています。3月末に最新の12月分が公表されました。今回は、その統計データをもとに、このところの投資マンション市場を分析します。
最新の国土交通省不動産価格指数
2020年12月分の不動産価格指数住宅総合は前月比プラス1.6%増、前年同月比3.7%増となりました。前年同月比がプラスとなるのは20年7月以降6カ月連続、指数値では1回目の緊急事態宣言が出された20年4月を除けば、20年1年間は毎月上昇を続けています。
特に区分所有マンションの価格指数は2010年を100とした指数で、全国では158.1となっており10年で1.5倍になったということになります。
商業用不動産に目をやると、こちらは4半期ごとのデータ好評ですが、20年4Qの1棟マンション(アパート)の指数は138.5(2010年平均=100)、前期(=2020年3Q)比でプラス2.8%となっており、マンション投資の勢いが止まっていないことが分かります。
信用性が高く実態に近い指数
この国土交通省不動産価格指数は、住宅総合では毎月1万戸以上のサンプル、商業系では5000~7000棟前後のサンプル、先にのべた1棟マンションでも1500前後のサンプル数
となっており、かなり実態に近い状況がつかめるものと思われます。
データそのものは、国土交通省が実施する「不動産の取引価格情報提供制度」により蓄積されたデータを活用、「個別物件の品質」をヘドニック法により調整したうえで、算出・推計した指数です。
とくに、住宅は、その立地や設備、規格、築年数などの属性が住宅ごとに異なります。また、住宅の「品質」も日々進化しており、住宅取引も恒常的におこるものではありません。つまり、住宅用不動産は、非常に個別性の強い市場となっています。そのため、取引価格の価値を推移として把握するためには、住宅の価格変動を、属性の変化によるものと「純粋な価格変動」とに分解する必要があり、このように「品質を調整した」価格指数を作成する方法のひとつがヘドニック法です。
これらは、豊富なサンプル数と制度の高い分析方法を併せ持った指標と言えそうです。
東京の区分マンション不動産価格指数の推移
図1は、2007年4月~2020年12月(最新)までの東京における区分マンション不動産価格指数の推移を示しています。
これをみると、2013年初めごろから価格上昇が始まり、多少のブレはあるものの、現在に至るまで上昇していることが分かります。新型コロナウイルスの影響は、ほんの一時的で、その後も上昇しています。2010年の平均を100とすると、2020年12月分は158.1となっており、1.6倍くらいということになります。
1棟マンションの不動産価格指数の推移
図2は、少し長期的ですが、1984年以降の1棟マンション不動産価格指数の推移を示しています。こちらも2010年平均=100です。
80年台後半~90年初くらいまでのバブル期はすさまじく高額でした。その後2005年~08年のミニバブル期にも上昇基調になります。そして区分マンションと同じく2013年頃から現在に至るまで、このところ少し上昇鈍化ですが、長期的に少しずつ上昇していることが分かります。すでにミニバブル期の価格を上回り、この先も少しずつ上昇の見通しです。
2025年を見据えた2つのポイント
ここまで、見てきたように住宅価格・投資マンション価格においては、コロナショックの影響は一時的ですぐに回復、その後再び上昇軌道に乗り始めています。さらに、この先しばらく住宅・投資用マンションの価格上昇はつづくものと思われます。
さて、それはいつまで続くのか、日本の人口動態を見据えると永遠に続くという事はないと分かっているものの、「いつ頃転換点を迎えるのか」は地域により異なると思います。
そこで、これからの市況を見定めるポイントをお伝えしておきます。ポイントは、2つ。
〈これからの市況を見定めるポイント1〉
1つ目は金利です。これだけ金融緩和が進むと否が応でも、いつかはインフレ基調になります。そのため、インフレに連動する賃料収入を得たいという思惑でマンション投資をされる方はさらに増えると予測します。しかし、それに応じて金利の上昇も起こります。このあたりのバランスが崩れた時は要注意です。
〈これからの市況を見定めるポイント2〉
2つ目は需給バランスです。住宅需要の基準は世帯数です。その世帯数が、該当エリア(自分が所有する、あるいは購入しようと思うエリア)で予想以上に減少が進むと需要が減ります。また、該当エリアで、同じようなマンション(例えばワンルームマンションやタワーマンションといった同一形体のマンション)が一気に増えると、供給過剰となり、バランスが崩れます。このような需給バランスの崩れも、局面の転換ポイントとなりますので、注意が必要です。
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