相続実務士 曽根 恵子(そね けいこ)
【相続実務士】の創始者として1万4,500件の相続相談に対処。(株)夢相続を運営し、感情面、経済面に配慮した”オーダーメード相続”を提案。”相続プラン”によって「家族の絆が深まる相続の実現」をサポートしている。出版書籍53冊、累計39万部出版、TV・ラジオ111回出演、新聞・雑誌取材協力425回、セミナー講師実績500回。(2019年5月時点) https://www.yume-souzoku.co.jp
持っているだけでは財産ではない
土地を持っているだけで財産になる時代は終わりました。持っているだけではその土地からの収益がなければ、固定資産税や維持費がかかるばかりで持ち出しとなり、資産とは言えない状態です。
今までは多くの土地を所有することが資産家の証であり財産でしたが、固定資産税や維持費を考えると、これからは収益力のある土地が財産であり、収益力がない土地は不良資産となりかねません。数よりも質にこだわって、選別していく時代になりました。
土地を売却して建物に換える
多くの土地や大きな土地を所有する場合、そのままでは節税対策はできません。土地の一部は売却して、売却代金で建物を建てたり、賃貸マンションを購入したりし、収益を上げられる不動産に組み換えていくことで節税になるのです。
不良資産から優良資産への転換
いままでの節税対策の主流となっていたのは、所有地に銀行からお金を借りて賃貸アパートを建てることでした。そのため、至る所にアパートができてしまい、駅から遠く買い物に不便なところや老朽化した建物など条件の悪いところは空室となっています。そうした現実から相続税の節税対策のトレンドとしては、不良資産を売却して優良資産を購入し不動産運用をする資産組み替えの時代へと変化しています。
たとえば、古アパートを所有しているが、賃料が安く収益が上がらなくなった場合は、売却して駅近郊の収益物件を購入することで収益も改善されます。
立地を替えるために買い替え
また、現在所有している土地が賃貸事業に適していないこともあります。賃貸にするのであれば、最寄り駅からの距離が徒歩10分以内であることが第一条件です。周辺の住環境なども重要になりますが、所有している土地の周辺環境は今から選べません。賃貸事業をするのであれば、賃貸事業に適している土地であるかそうでないかを冷静に判断し、賃貸事業に適さない土地は売却して別の方法で賃貸事業をするようにします。これが資産組み替えです。
また、最寄り駅から近いこと以外に周辺の環境や立地のブランドなどを選択基準とすると将来的な入居率や売却時の価格にも有利に働きます。
たとえば、年間収入250万円の古いアパートを1億円で売却し、駅近の家賃が年間120万円の賃貸マンションを4つ購入すると年間収入は480万円となり、約2倍近い収入が得られるようになります。
【事例1】収益性の低い貸宅地を売却して納税対策をしたUさん
Uさん(50代男性)の父親は地主で、祖父から多くの土地を相続しました。父親が亡くなったときは配偶者の特例を生かして母親の納税の負担は少なかったのですが、多くの土地を相続した結果、母親が亡くなった時の二次相続が不安です。母の財産は現在、自宅、賃貸マンション、駐車場、貸宅地、金融資産、生命保険があり、賃貸マンションの債務を差引いても基礎控除を超えているので相続税の納税が必要になります。
賃貸マンションや駐車場は収益性が高くて良いのですが、貸宅地については地代収入と固定資産税・都市計画税の支出を比較すると収益性が低く、また、土地の所有者でありながら自由に使うことが出来ず、所有価値が低い財産なので売却することを母親に提案をしました。
貸宅地の売却先は借地人が第一候補ですので、生前ながら、借地権者に事情を説明すると、ぜひ購入したいという意向があり、双方の納得できる評価額で売却することが出来ました。
納税対策として、売却代金で追加の生命保険に加入することでUさんは安堵されました。
【事例2】不良資産を売却、築浅物件に買い替えて一安心できたDさん
Dさん(60代男性)の父親は、定年後に本格的な賃貸事業を始めましたが、投資額を押さえるために競売により収益物件を購入し、財産を増やしていく事が楽しみでした。
その父親が亡くなり、相続手続きが必要となったので、はじめて、Dさんや弟さんで財産を確認すると、築40年程になる木造共同住宅や、建築制限があり建物が建てられない土地、家賃の滞納が多いアパート、賃貸借契約書が無い物件など、どれも難がありました。Dさん兄弟にしてみれば、今後、大規模修繕やリフォームのために大幅な出費がかかる恐れや、収益が上がらない一方で固定資産税がかかり採算が合わなくなるなどの可能性があり、そのまま所有して賃貸経営を継続していくことには不安がありました。
そこで、全てを売却し、買い替えをDさん兄弟に提案しました。いくつもの課題がありましたが、それでも幸い全物件を売却する事ができ、必要な現金を残して築浅の物件に買い替えることができ、Dさん兄弟はようやくひと息つかれました。
以上、2つの事例からもわかるように、収益の生まない不動産は所有しているだけで損をしてしまう、財産とは言えない不動産です。相続した土地や建物を売却するのは気が引けることもあるかもしれませんが、しっかりと現状を判断して、より収益性の高い不動産に変えていくことを考えて欲しいと思います。
最新のコラム
不動産エコノミスト
吉崎 誠二(よしざき せいじ)
ファイナンシャルプランナー
大竹 のり子(おおたけ のりこ)
国際認定テクニカルアナリスト
横山 利香(よこやま りか)
- <第1回>ウッドショックで上昇基調を示した不動産市況と株式市場
- <第2回>コロナショックでも堅調な状況が続く不動産市況とREIT市場
- <第3回>感染症の流行を機にDX化が進む不動産業界と、後押しするデジタル改革関連法
- <第4回>民法改正を機に活用が進む不動産賃貸業における保証業務とは
- <第5回>オリンピックに向けて上昇が続いた不動産価格の今後の行方
- <第6回>感染症の影響を受けて、住宅設備機器が品薄状態に!
- <第7回>不動産業界で進むDX化を取り入れて、入居者に選ばれる物件になろう!
- <第8回>世界的なインフレの到来に不動産で備えるということ
- <第9回>米国のインフレがJ-REIT市場に与える影響
- <第10回>不動産価格上昇で考える有望な不動産投資エリアと世代とは
- <第11回>金利上昇時の不動産投資をどう考えるか
- <第12回>不動産価格上昇時でも成功する不動産投資
不動産エコノミスト
吉崎 誠二(よしざき せいじ)
- <第1回>新型コロナウイルスが不動産市場に与える影響は?~データで読み解く不動産市況①~
- <第2回>ワンルームマンション投資意欲が伸び続ける理由~データで読み解く不動産市況②~
- <第3回>コロナショックで見えた、ワンルームマンション投資の安定感
- <第4回>首都圏投資マンション価格上昇はいつまで続くのか?
- <第5回>賢く不動産投資ローンを借りる2大ポイント~不動産投資積極派が増えている~
- <第6回>新型コロナウイルスの影響はどれくらいあったのか? 最新基準地価 東京23区の状況
- <第7回>データで見る「Withコロナ期」の不動産市況
- <第8回>2021年マンション投資を中心とした不動産市況予測
- <第9回>東京の賃貸住宅需要を支える興味深いデータ
- <第10回>不動産市況・マンション市況の好調がうかがえる3つの数字
- <第11回>最新! 2021年公示地価を読み解く。21年後半はどうなる?
- <第12回>コロナショックでも価格上昇が止まらない投資用マンション市場。不動産価格指数で解説
- <第13回>データで解説!2000年から現在の新築投資用マンション市況の変遷と今後の見通し
- <第14回>データで解説!ワンルーム&ファミリー物件の最新キャップレート分析
- <第15回>区分マンション投資で、これだけは知っておきたい融資の事
- <第16回>データで解説! 首都圏の新築投資用マンションの販売価格は今後どうなる?
- <第17回>データで解説! 最新(23年分)の都道府県地価調査結果の分析
- <第18回>データでみる!増える外国人居住者、賃貸住宅需要の下支えの構図
- <第19回>データで解説! 「いまが買い時?」投資用マンション価格は今後も上昇の可能性あり?
- <第20回>2024年の賃貸住宅投資市況の見通し—たとえ金利が上がっても影響は限定的?
- <第21回>2040年までの将来人口見通し発表! 賃貸住宅投資は首都圏物件の一択?
- <第22回>賃料上昇が投資マンション価格上昇分を吸収する?
- <第23回>マイナス金利解除でマンション投資市況に変化はあるのか?
- <第24回>「将来世帯推計」で見る、今後の賃貸住宅需要の変化
相続実務士
曽根恵子(そねけいこ)
- <第1回>お手本にしたい!樹木希林さんの家族を幸せにする不動産、遺言書の相続術!
- <第2回>3億円の財産が国のものに!おひとりさま、1人っ子は生きているうちに使おう!
- <第3回>40代の夫が急死。保険金でマンションを購入、家賃収入で不安のない生活ができる!
- <第4回>相続した空き家の実家を売却して賃貸マンションを2戸購入。資産の組み替え成功例!
- <第5回>現金を不動産に、経営は同族会社に。評価を下げて、財産を減らす相続対策成功例!
- <第6回>相続プランを作り、家族で相続対策に取り組もう!サポートは不動産実務家!
- <第7回>空き家状態の相続した実家を売却。その資金で区分マンション2戸購入し相続税を節税!
- <第8回>数よりも質。収益があがる不動産が財産となる
- <第9回>銀行預金だけでは危険!?相続時における節税対策とは
- <第10回>親任せにしたら財産は減るだけ!子供世代が対策しよう!
- <第11回>不動産を購入して、贈与すれば節税が加速する!
- <第12回>老人ホームに入るお金は残す必要がない!むしろ対策に使おう
ファイナンシャルプランナー
山口京子(やまぐちきょうこ)
住宅コンサルタント
野中清志(のなかきよし)