不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
㈱船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。 http://yoshizakiseiji.com
【第7回】データで見る「Withコロナ期」の不動産市況
―緊急事態宣言後の経済データ
―Withコロナ期の不動産関連データ
―Withコロナ期の不動産投資市況
新型コロナウイルスにより、世界が大きく揺れた2020年もあと1カ月あまりとなりました。日本では再び感染者の報告が増え「第3の波」とも言われ、先行き不安な状況が続いています。その一方でワクチンの開発が進んでいることやアメリカ大統領選挙の決着が見えてきたことで、株価は日米とも近年まれにみる高水準を維持しています。金融市場は、回復どころかコロナショック前よりもいい状況、そしてGDPなどをみると実経済はなんとか回復基調にあるという状況です。日本においては「Withコロナ」の流れに乗り始めているといえるでしょう。
緊急事態宣言後の経済データ
これから師走~新年へと向かう11月半ば(=執筆時点)ですが、緊急事態宣言が開けたあとのいわゆる「Withコロナ」下での各種データが出始めました。
7〜9月期のGDP(速報値)は前期(4〜6月期)に比べて+5.0%と大きな伸びを示しました。個人消費の大幅な改善が要因のようです。年換算だと+21.4%ですから大きく回復したといえるでしょう。家財などの消費財が大きく伸びた事やGoToトラベルの効果があったと言われています。
一方、有効求人倍率(季節調整値)は1.03倍とかろうじて1倍は超えているものの、近年の中では低水準です。しかし、これはコロナウイルスの影響が出始めた3月以前から、少しずつ低下しており、コロナウイルスの影響だけではなさそうです。また、職種(あるいは企業)によっては年収減が見られ、まもなく冬のボーナス期になりますが、多くの企業で例年よりも厳しくなりそうです。雇用環境の悪化や賃金の低下がこの先も続けば、少なからず分譲マンション等の実需不動産に影響を与えそうです。
Withコロナ期の不動産関連データ
首都圏における賃貸住宅賃料は、概ね横ばいからやや上昇という状況です。東京カンテイが毎月発表する分譲マンションの賃貸貸し物件の賃料の推移をみると、10月分は前月比プラス0.6%と3カ月連続でプラスとなっています。Withコロナ期に入って以降はプラスになっているということになります。このデータでは近畿圏や中部圏でもプラスになっています。
逆に苦戦しているのは、オフィス関連です。
ビルディンググループデータによると、東京主要5区(千代田・港・中央・渋谷・新宿)の平均空室率は4.09%となっており、5カ月連続の空室率増になっています。主要5区全てで悪化しており、この傾向が6月以降続いているわけです。東京都心ほどではないにしろ、大阪や名古屋でも同様の結果となっています。オフィス賃料も、これに引きずられる形で安くなっています。
企業のオフィス移転のサポートを手がける会社によると、このところ散らばっているオフィスの移転統合、一部床の返還、などの縮小コンサルティングがとても増えており、オフィスの空室率の上昇はこれからが本番で、年度を超えると(つまり4月以降)は、もっと空室率が上昇すると予想されています。Withコロナ期に入って、緊急事態宣言中に比べて、朝夕の通勤電車の人は増えましたし、オフィス街に人は戻ってきました。しかし、リモートワークが定着し、新型コロナウイルスが蔓延する以前のようにはもう戻らないと思われます。
ホテル関連ではGoToトラベルの恩恵で、現在は一時的に増えてきていますが、冬に向けて再び流行の兆しが見えてきており外出を躊躇する方が増えそうなことや、GoToトラベルキャンペーンが終わると、再び苦戦を強いられることになるでしょう。
Withコロナ期の不動産投資市況
不動産投資市況の状況把握が最も分かりやすいのが投資家アンケートに基づく「キャップレート」の推移です。
いくつかのシンクタンクがデータを公表していますが、概ね年2回の発表で、年末(や年始)ごろに最新データが出ます。まだ「Withコロナ期」のデータは出ていませんが、ワンルームマンションや1棟モノの収益レジデンスの取引状況を見ていると、コロナショック前と同じか、ややいい感じのようです。大型案件では海外勢の投資家が、見に来れないなどということで現実的に難しくなっているようですが、それ以外は好調のようです。冒頭にのべたような実経済よりも金融経済に近い状況だと思います。
最新のコラム
不動産エコノミスト
吉崎 誠二(よしざき せいじ)
ファイナンシャルプランナー
大竹 のり子(おおたけ のりこ)
国際認定テクニカルアナリスト
横山 利香(よこやま りか)
- <第1回>ウッドショックで上昇基調を示した不動産市況と株式市場
- <第2回>コロナショックでも堅調な状況が続く不動産市況とREIT市場
- <第3回>感染症の流行を機にDX化が進む不動産業界と、後押しするデジタル改革関連法
- <第4回>民法改正を機に活用が進む不動産賃貸業における保証業務とは
- <第5回>オリンピックに向けて上昇が続いた不動産価格の今後の行方
- <第6回>感染症の影響を受けて、住宅設備機器が品薄状態に!
- <第7回>不動産業界で進むDX化を取り入れて、入居者に選ばれる物件になろう!
- <第8回>世界的なインフレの到来に不動産で備えるということ
- <第9回>米国のインフレがJ-REIT市場に与える影響
- <第10回>不動産価格上昇で考える有望な不動産投資エリアと世代とは
- <第11回>金利上昇時の不動産投資をどう考えるか
- <第12回>不動産価格上昇時でも成功する不動産投資
不動産エコノミスト
吉崎 誠二(よしざき せいじ)
- <第1回>新型コロナウイルスが不動産市場に与える影響は?~データで読み解く不動産市況①~
- <第2回>ワンルームマンション投資意欲が伸び続ける理由~データで読み解く不動産市況②~
- <第3回>コロナショックで見えた、ワンルームマンション投資の安定感
- <第4回>首都圏投資マンション価格上昇はいつまで続くのか?
- <第5回>賢く不動産投資ローンを借りる2大ポイント~不動産投資積極派が増えている~
- <第6回>新型コロナウイルスの影響はどれくらいあったのか? 最新基準地価 東京23区の状況
- <第7回>データで見る「Withコロナ期」の不動産市況
- <第8回>2021年マンション投資を中心とした不動産市況予測
- <第9回>東京の賃貸住宅需要を支える興味深いデータ
- <第10回>不動産市況・マンション市況の好調がうかがえる3つの数字
- <第11回>最新! 2021年公示地価を読み解く。21年後半はどうなる?
- <第12回>コロナショックでも価格上昇が止まらない投資用マンション市場。不動産価格指数で解説
- <第13回>データで解説!2000年から現在の新築投資用マンション市況の変遷と今後の見通し
- <第14回>データで解説!ワンルーム&ファミリー物件の最新キャップレート分析
- <第15回>区分マンション投資で、これだけは知っておきたい融資の事
- <第16回>データで解説! 首都圏の新築投資用マンションの販売価格は今後どうなる?
- <第17回>データで解説! 最新(23年分)の都道府県地価調査結果の分析
- <第18回>データでみる!増える外国人居住者、賃貸住宅需要の下支えの構図
- <第19回>データで解説! 「いまが買い時?」投資用マンション価格は今後も上昇の可能性あり?
- <第20回>2024年の賃貸住宅投資市況の見通し—たとえ金利が上がっても影響は限定的?
- <第21回>2040年までの将来人口見通し発表! 賃貸住宅投資は首都圏物件の一択?
- <第22回>賃料上昇が投資マンション価格上昇分を吸収する?
- <第23回>マイナス金利解除でマンション投資市況に変化はあるのか?
- <第24回>「将来世帯推計」で見る、今後の賃貸住宅需要の変化
相続実務士
曽根恵子(そねけいこ)
- <第1回>お手本にしたい!樹木希林さんの家族を幸せにする不動産、遺言書の相続術!
- <第2回>3億円の財産が国のものに!おひとりさま、1人っ子は生きているうちに使おう!
- <第3回>40代の夫が急死。保険金でマンションを購入、家賃収入で不安のない生活ができる!
- <第4回>相続した空き家の実家を売却して賃貸マンションを2戸購入。資産の組み替え成功例!
- <第5回>現金を不動産に、経営は同族会社に。評価を下げて、財産を減らす相続対策成功例!
- <第6回>相続プランを作り、家族で相続対策に取り組もう!サポートは不動産実務家!
- <第7回>空き家状態の相続した実家を売却。その資金で区分マンション2戸購入し相続税を節税!
- <第8回>数よりも質。収益があがる不動産が財産となる
- <第9回>銀行預金だけでは危険!?相続時における節税対策とは
- <第10回>親任せにしたら財産は減るだけ!子供世代が対策しよう!
- <第11回>不動産を購入して、贈与すれば節税が加速する!
- <第12回>老人ホームに入るお金は残す必要がない!むしろ対策に使おう
ファイナンシャルプランナー
山口京子(やまぐちきょうこ)
住宅コンサルタント
野中清志(のなかきよし)