不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
㈱船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。 http://yoshizakiseiji.com
【第17回】データで解説! 最新(23年分)の都道府県地価調査結果の分析
2023年9月
2023年の都道府県地価調査が国土交通省より9月19日に公表されました。3月に公表される地価公示と9月に公表される都道府県地価調査は、全国の地価状況が分かる2つの大きな土地価格調査です。
都道府県地価調査は、都道府県が調査主体となって行われます。価格時点を毎年7月1日とし、21,381の「基準地」の地価を不動産鑑定士が鑑定を行います。この調査結果により公表される地価は、「基準地」の地価ということで、「基準地価」とも呼ばれます。今回は、最新(23年分)の都道府県地価調査結果について分析してみましょう。
23年都道府県地価調査の全国俯瞰
23年都道府県地価調査では、全国平均で、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも2年連続で上昇、すべて昨年を上回る上昇率となりました。
全国平均では、全用途平均は1.0%の上昇(昨年はプラス0.3%)、住宅地は0.7%の上昇(昨年はプラス0.1%)、商業地は1.5%の上昇(昨年はプラス0.5%)となりました。
今年の基準地価では、全用途平均・住宅地・商業地とも、新型コロナウイルスの影響前の19年の時の上昇率を上回ったことが特徴的でした。
地方圏も上昇が顕著になった住宅地地価
ここからは、住宅地と商業地に分けて解説します。まずは、住宅地の状況です。
全国的に住宅地の地価上昇(あるいは回復基調)が顕著となっており、三大都市圏はプラス2.2%(昨年はプラス1.0%)、このうち東京圏はプラス2.6%(昨年はプラス1.2%)、大阪圏はプラス1.1%(昨年はプラス0.4%)、名古屋圏はプラス2.2%(昨年はプラス1.6%)となっています。地方圏全体ではプラス0.1%、このうち地方四市(札幌・仙台・広島・福岡)はプラス7.5%(11年連続でプラス、かつ上昇幅は20年以降最高値)、その他地方圏ではマイナス0.2%(過去15年で最も低いマイナス)となりました。
全国と4大都市における直近5年間の住宅地基準地価変動率は、図1のようになります。これをみれば、すべてのグラフで、2019年の変動率を上回る状況となっていることがわかります。
大都市部や地方主要都市では住宅需要が堅調で、特にマンション価格は高騰を続けており、基準地価上昇が続いています。また、中心部の地価上昇、住宅価格の上昇にともない、その周辺地域へ地価上昇の波が派生しています。とくに、地方四市は10年を超える高い上昇率を伴う地価上昇が続いているため、その周辺部の市町へ需要が波及し、こうした地域ではかなり高い上昇率となっています。また、半導体など大型工場建設が決まっている地域では、住宅需要が伸びることが確実なことから、こうした状況に拍車がかかっています。
住宅地の変動率ベスト10をみれば、そのうち9つは、千歳から札幌にかけての地点となっています(残り1地点は宮古島)。
なお、都道府県別でみれば、変動率がプラスの都道府県数は18、昨年から4つ増えました。
その他地方圏も32年ぶりのプラスに。商業地地価上昇、一段と顕著に
次に商業地について解説します。商業地においても昨年を上回る上昇となっています。とくに、地方四市を除く「その他地方」において32年ぶりの上昇(プラス0.1%)となったことが注目を集めました。
三大都市圏はプラス4%(昨年はプラス4.0%)、このうち東京圏はプラス4.3%(昨年はプラス2.0%、11年連続でプラス)、大阪圏はプラス3.6%(昨年はプラス1.5%)、名古屋圏はプラス3.4%(昨年はプラス2.3%)となっています。地方圏全体ではプラス0.5%(昨年はマイナス0.1%)、このうち地方四市はプラス9.0%(昨年はプラス6.9%、11年連続でプラス、かつ上昇幅は20年以降最高値)、その他地方圏ではプラス0.1%(32年ぶりのプラス)となりました。
上昇の背景にある大きな要因としては、以下の2つです。
まず、新型コロナウイルスの第5類移行に伴いオフィス需要が回復し、国内外の観光需要・出張需要の回復、店舗需要の回復が大きく寄与したと思われます。
そして、マンション需要堅調、マンション価格上昇が続いており、マンション用地需要との競合により、商業地地価上昇に繋がっています。また、再開発事業が、首都圏だけでなく全国の主要都市で盛んに行われており、利便性・繁華性向上の期待感から地価上昇が続いています。再開発周辺地には多くのマンションが建設され、こうした流れも商業地地価上昇に拍車をかけています。
商業の変動率ベスト10をみれば、半導体企業の進出が決まっている地点の伸びが顕著で熊本県菊池郡の地点が1位と6位と10位、6つは住宅地と同じく北海道の千歳~札幌間の地点、あと1つは白馬村の地点でした。
なお、都道府県別でみれば、変動率がプラスの都道府県数は22、昨年から4つ増えました。
東京都区部と周辺の状況
東京都区部に目を向けると 住宅地では、東京23区はプラス4.2%(昨年はプラス2.2%)と上昇幅が大きく拡大しました。23区内で各区をみれば、全てプラス3%を超えており、(昨年はプラス1~2%台中心)、なかでも、文京区と豊島区は6%を超える上昇となっています。東京圏内では、千葉県市川市がプラス11.3%と唯一10%以上の上昇となりました。
商業地では、東京23区はプラス5.1%(昨年はプラス2.2%)とプラス幅が拡大しました。なかでも台東区、北区では7%を超える伸びとなっており、中心区部より離れた区部の上昇が顕著になっています。東京圏内では、千葉県市川市(プラス13.0%)と船橋市(プラス10.2%)、浦安市(プラス14.2%)以上、東京都に近い千葉県の市で10%を超える伸びとなっています。
24年への展望
固定金利は上昇基調にあるものの、政策金利に動きはなく、全体的に低金利が続いています。投資マンション、実需の分譲マンションとも需要が旺盛なことに加えて、海外投資マネーの流入などが顕著で23年の基準地価は大きく上昇しました。
24年の見通しとしては、金利上昇の可能性が高まってきたこと、また地価上昇のための好材料の多くが出尽くした状況にあること、などから考えると、24年も地価上昇が続くものの、大都市部での上昇率の伸びは、今年並みにとどまる可能性が高いと思われます。
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