
住宅コンサルタント 野中 清志(のなか きよし)
株式会社 オフィス野中 代表取締役。大手マンションディベロッパーの営業を経て、ワンルームマンションディベロッパーにて執行役員を歴任。2003年に株式会社オフィス野中を設立。 「お客様の立場に立った購入アドバイス」を実践し、不動産の豊富な知識と業界30年の経験を活かしたコンサルティングをおこなう。
<1>増加する「空き家」住宅
現在、空き家問題が大きくクローズアップされています。総務省統計局「平成25年住宅・土地統計調査」によると、日本の空き家数は820万戸と、5年前に比べて63万戸(8.3%)増加しています。住宅総数に占める空き家の割合は13.5%にも上り、過去最高となっています。
総住宅数、空き家及び空き家率の推移
全国(昭和48年~平成25年)
<総務省統計局「平成25年住宅・土地統計調査」>
空き家が増加する要因のひとつとして日本における世帯構成の変化が挙げられます。昔と比べて1世帯の人数が減り、
①面積が広すぎる住宅
②間取りが多すぎる住宅
③駅から遠い住宅
などが構造的に空き屋を増やす要因となっているようです。
しかし逆に都心部や利便性の高いエリアの立地の住宅は需要が増加し、価格も上昇しています。「空き家となる住宅」と「空き家にならない住宅」には様々な違いがあります。こうした条件の違いや、また空き家(空室)とならないためにはどのようなことが重要となるのかも見てみましょう。
<2>空室にならないマンションの「立地」とは
①交通利便性がよい
ワンルームマンションを借りる方は比較的若い単身者の方が多く、通勤や通学などの「交通利便性」を重視する傾向にあります。そういった方の価値観としては、マンションの面積とか自然環境などはもちろん大切ですが、最も重要視するのは通勤や通学に要する「時間」です。つまり勤務先がある都心までの通勤時間や最寄り駅までの徒歩時間などが住まい選びの重要なポイントとなっています。
ですから、投資用マンションを選ぶ際にはまずそのマンションの「交通利便性」のチェックが必要となってきます。
さらに将来的な視点に立てば、物件の近くに新しい駅や路線ができたり都心部などへのアクセスが向上する事もあります。こうした情報もしっかりチェックしておきましょう。
②生活利便性に優れている
当該マンションのある場所の周辺や、駅の近く、また沿線上などの商業施設や商店街などの施設、さらに公共施設や病院、図書館や映画館、美術館や習い事のできるカルチャースクールなどの文化施設の有無も重要となってきます。
普段の仕事帰りの通勤路に商店街があれば普段の買い物などにも便利ですし、遅くまで営業している店などがあれば、女性が夜遅く帰る場合でも安心です。
つまりマンションを借りるという事は、「生活文化圏」の重要性を認識することが大切です。
<3>賃貸ニーズを広範囲から得るには
マンションの立地を見るときは、物件を中心に広域的なエリアに目を向けて、物件の近くや沿線上、また沿線のターミナル駅付近などにビジネス街や大学などが多くあるかどうかをチェックすることが重要となります。
こうした「ビジネスゾーン」と「キャンパスゾーン」の両方が交わるエリアは、賃貸需要が多く、空室になりづらいエリアと言えます。
つまり社会人にも貸せて、学生にも貸せる立地はより商圏が広がり賃貸ニーズも広がります。
周辺や沿線上に再開発や商業施設などが建設されて就業人口や来訪者が増加する予定がある場合など、将来的に住宅需要も増加が見込まれます。
また地方から上京してくる方などにとっては、知名度の高い有名な駅や沿線なども有利となります。特にブランドエリア沿線などは人気も高くなっています。
<4>転居する理由は二つに分けられる
せっかく入居した方も転居(引越し)する場合はあります。そうした方に転居の理由を尋ねると、「住居に不満があったから」「よい条件の住宅を見つけたから」など条件面や「結婚」「転勤」「転職」など様々あるようです。
その中でも理由を大きく二つに分けると、一つは「住居の不満」「条件の不満」など環境・建物の条件の不満、もう一つは「結婚」「転勤」など入居者の都合が理由となっています。
このうち、入居者の都合による理由でしたら仕方ありませんが、「住居に対する不満」「条件に対する不満」は対処できる可能性があります。
<5>近隣の物件と比べて条件はどうか
こうした条件面の場合は「周辺相場」との比較が重要となります。
空室を減らすためには既存入居者の退去率を減らすことが重要となってきます。周辺にある物件の建物・設備・広さ・家賃・その他条件などにも注意して、お持ちの物件が相場より著しく高かったり、条件が悪くならないようにすることも必要といえます。
新規の募集をする際も注意が必要です。新築の場合は建物や設備なども新しく家賃が多少高くても入居者が集まります。しかし築後何年も経ってくると周辺の既存物件と家賃を調整する必要も出てきます。その際に周辺相場よりも家賃が高いとなかなか決まらない場合があります。すると長い間空室の物件となってしまい、印象も悪くなってしまいます。
空室が長く続く場合は損失も大きくなるので、その場合は家賃を見直してみることも検討してみましょう。
<6>不動者会社や内見の際には第一印象も大事
次の賃借人を早く決めるためには、多くのお客様に見てもらうことが大切で、さらに不動産屋さんが一押しとする「お勧め物件」と感じてくれる物件を購入することが大切です。
内見される方の第一印象を高めるためには
①専有部分
・専有部分の清掃や設備のメンテナンスを強化する
・常に清潔に、設備等も動くようにしておくなど、日常のメンテナンスや清掃を実施する
・ポストにチラシが溜まっていないか
・内見時にスリッパを用意したり、電灯がつくようにしてあるか
②共用部分
・共用部分の管理状態が大切
・共用部分の美観に気をつける(エントランスホールの清掃等)
・共用廊下に荷物・自転車などが放置されていないか
・共用郵便受けの周りに不要チラシなどが散乱していないか
・敷地や共用部分にゴミなどが落ちていないか
・共用部分で明らかに壊れているところはないか(特に電気がつかない等)
・植栽計画をはじめとする共用部分の仕上がり・管理
など、借りる人の視点で見ることが大切です。
<7>設備面での魅力を強化
さらに専有部分内の設備の魅力を強化することで、物件の魅力や第一印象を上げることもできます。
○女性にはミストバスなど美容にも好印象な設備、使いやすい洗面所やきれいなトイレなど水周りをアピール
○さらに女性にはセキュリティも重要なポイント
○インターネットによるショッピングが増加しているので単身者にとって不在時でも荷物を受け取ることのできる「宅配ロッカー」は大きな魅力
○スマホの普及で、室内設備や家電、セキュリティなどをスマホやインターネットで操作できるIoTも今後は注目される
またこうした人気の設備が最初から備わっているマンションを購入すれば、さらに入居率も上がるのではないでしょうか。
<8>アプリシエーションとは?
こうした設備面などの投資により、マンションの資産価値を増大させることを「アプリシエーション」と言います。
例えば、既存の投資利回り4%のワンルームマンションに100万円を投資してセキュリティ・バス・インターネットなどの設備を増設・リニューアルしたとします。その結果、家賃を年間10万円上げることができたとします。この場合は10万円÷4%で物件の価値が250万円増大したことになります。
<9>会社選びも重要な要素に
一定の経験や商品企画力をもつ不動産会社では、投資用マンションを販売する際に、その立地や周辺環境、賃貸ニーズなども厳しく精査した上で土地を仕入れ、条件にあった設備・仕様としてワンルームマンションを販売します。
こうした「プロの目」で選ばれた土地に建設されたワンルームマンションは安心度も高いといえます。
ですから、商品企画段階でよく精査している会社を選ぶ事も重要となってきます。その会社の販売しているマンションの入居率や空室率を見れば、その商品力も分かります。
つまり新築マンションの場合は、マンション選びとともに、どの会社から買うか、という「会社選び」も重要となってきます。
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