不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
㈱船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。 http://yoshizakiseiji.com
【第4回】首都圏投資マンション価格上昇はいつまで続くのか?
投資用マンションは、すでにコロナショック前の販売水準に
コロナショックの影響により、2020年4-6月のGDPは、史上最大級の下落幅となりました。飲食・アパレル・観光など多くの業界で厳しい状況が続いています。
一方で、株式市場において主要指標である日経平均などは、すでに新型コロナウイルスの影響が出る以前の状況に戻しています。銘柄を個別に見れば、コロナウイルスの影響により大きく上げたものもあれば、大きく下げたものもありますが、全体では「おおむね戻った」という状況と言えます。
また、投資用マンション(主にワンルーム、以下同じ)の販売においても、緊急事態宣言解除以後(宣言期間中は営業自粛のため、販売減を余儀なくされています)は、以前の水準に戻った、あるいはそれ以上に売れているという状況のようです。
実体経済は、かなりの苦戦。しかし、投資の世界では、すでに以前の状況に戻った、ということでしょう。
知人の株式評論家と話していると、「株はそろそろ下落可能性が出てきたので、大半を売却して、その資金の一部を使ってワンルームマンションを3戸購入した」と話しておりました。株式市場が悪化するかどうかは分かりませんが、「不動産投資の方が、リスクが少ない」と考える投資家が多いようです。
投資マンション平均価格の推移
先日、首都圏における投資マンションの市場動向が不動産経済研究所から発表されましたので、分析してみましょう。
2019年の1年間に首都圏で発売された投資用マンションは約6,000戸、平均価格は3,131万円となりました。首都圏全体でこの水準ですので、都心に限れば、もう少し高くなっています。
下図は、2009年以降の平均価格の推移を示したグラフです。
このグラフをみれば分かるように、2012年以降右肩上がりで首都圏の投資マンション価格は上昇しています。2018年には平均単価が3,000万円を超えています。2013年頃からワンルームマンション投資は過熱してきていますが、この間に約600万円の価格上昇、平均的なワンルームマンションは約7.5坪ですから、坪単価の上昇は約60万円となります。上昇幅は、「過熱ほどでもない」といえるでしょう。
これを平均㎡単価でみると、よく分かります。
上図は、2009年からの首都圏投資用マンションの平均㎡単価の推移を示したものです。
確かに、2013年以降上昇していますが、上昇幅はそれほど大きくないといえるでしょう。
投資マンションの販売戸数が多いのはいつごろ?
次に、バブル期以降の投資用マンションの発売戸数の推移を見てみましょう。
首都圏における投資マンションは、バブル期にも多く建てられましたが、目立って多く建築・販売されたのは2000年代の前半でした。当時、持たざる経営(オフバランス)がもてはやされ、企業はあまり活用できていない遊休地・社宅などを手放したり、都内にある工場や倉庫を売却して郊外に移転させたりとして、キャッシュフローをよくすることに邁進しました。そのため、都内や周辺エリアで、多くの不動産が売りに出されて、それをデベロッパーが購入しました。
2000年代の前半は、史上稀にみる分譲マンション建築ラッシュで、首都圏において年間10万戸近い供給がありました。その中に投資用マンションもあったわけです。いまでも、中古投資用マンションの売り物件でこの頃に建てられた物件を多く目にします。ちょうど築10~20年経つ物件です。2013年以降投資用マンションブームになりますが、2000年代前半に比べれば供給数が少なく、販売すればすぐに売れる、という状況が続きました。また中古物件でも築浅のものは、人気が高くなっています。こうした傾向が現在も続いているわけです。
価格上昇が止まらない理由
ここまで見てきたように、マンション投資とくにワンルームマンション投資の人気は依然高い状態が続いています。そして、この傾向はしばらく続くものと思われます。
近年の投資用マンションブームは、
1)将来の不安解消のため長期に渡り賃料収入を得たい
2)借入における低金利政策
3)税制面での優遇
4)預金金利の低下
5)インフレ懸念によるインフレ連動収入を得たい
等により、マンション投資を行う方が増えたからです。
いま述べた、1)~5)の傾向はしばらく続くものと思われます。また、とくに5)のインフレ懸念は、コロナショックにより短期的にはないと思いますが、中期的にみれば可能性が高くなりました。
こうしたことから、投資用マンション価格の上昇はしばらくつづいていくものと思われます。
最新のコラム
不動産エコノミスト
吉崎 誠二(よしざき せいじ)
ファイナンシャルプランナー
大竹 のり子(おおたけ のりこ)
国際認定テクニカルアナリスト
横山 利香(よこやま りか)
- <第1回>ウッドショックで上昇基調を示した不動産市況と株式市場
- <第2回>コロナショックでも堅調な状況が続く不動産市況とREIT市場
- <第3回>感染症の流行を機にDX化が進む不動産業界と、後押しするデジタル改革関連法
- <第4回>民法改正を機に活用が進む不動産賃貸業における保証業務とは
- <第5回>オリンピックに向けて上昇が続いた不動産価格の今後の行方
- <第6回>感染症の影響を受けて、住宅設備機器が品薄状態に!
- <第7回>不動産業界で進むDX化を取り入れて、入居者に選ばれる物件になろう!
- <第8回>世界的なインフレの到来に不動産で備えるということ
- <第9回>米国のインフレがJ-REIT市場に与える影響
- <第10回>不動産価格上昇で考える有望な不動産投資エリアと世代とは
- <第11回>金利上昇時の不動産投資をどう考えるか
- <第12回>不動産価格上昇時でも成功する不動産投資
不動産エコノミスト
吉崎 誠二(よしざき せいじ)
- <第1回>新型コロナウイルスが不動産市場に与える影響は?~データで読み解く不動産市況①~
- <第2回>ワンルームマンション投資意欲が伸び続ける理由~データで読み解く不動産市況②~
- <第3回>コロナショックで見えた、ワンルームマンション投資の安定感
- <第4回>首都圏投資マンション価格上昇はいつまで続くのか?
- <第5回>賢く不動産投資ローンを借りる2大ポイント~不動産投資積極派が増えている~
- <第6回>新型コロナウイルスの影響はどれくらいあったのか? 最新基準地価 東京23区の状況
- <第7回>データで見る「Withコロナ期」の不動産市況
- <第8回>2021年マンション投資を中心とした不動産市況予測
- <第9回>東京の賃貸住宅需要を支える興味深いデータ
- <第10回>不動産市況・マンション市況の好調がうかがえる3つの数字
- <第11回>最新! 2021年公示地価を読み解く。21年後半はどうなる?
- <第12回>コロナショックでも価格上昇が止まらない投資用マンション市場。不動産価格指数で解説
- <第13回>データで解説!2000年から現在の新築投資用マンション市況の変遷と今後の見通し
- <第14回>データで解説!ワンルーム&ファミリー物件の最新キャップレート分析
- <第15回>区分マンション投資で、これだけは知っておきたい融資の事
- <第16回>データで解説! 首都圏の新築投資用マンションの販売価格は今後どうなる?
- <第17回>データで解説! 最新(23年分)の都道府県地価調査結果の分析
- <第18回>データでみる!増える外国人居住者、賃貸住宅需要の下支えの構図
- <第19回>データで解説! 「いまが買い時?」投資用マンション価格は今後も上昇の可能性あり?
- <第20回>2024年の賃貸住宅投資市況の見通し—たとえ金利が上がっても影響は限定的?
- <第21回>2040年までの将来人口見通し発表! 賃貸住宅投資は首都圏物件の一択?
- <第22回>賃料上昇が投資マンション価格上昇分を吸収する?
- <第23回>マイナス金利解除でマンション投資市況に変化はあるのか?
- <第24回>「将来世帯推計」で見る、今後の賃貸住宅需要の変化
相続実務士
曽根恵子(そねけいこ)
- <第1回>お手本にしたい!樹木希林さんの家族を幸せにする不動産、遺言書の相続術!
- <第2回>3億円の財産が国のものに!おひとりさま、1人っ子は生きているうちに使おう!
- <第3回>40代の夫が急死。保険金でマンションを購入、家賃収入で不安のない生活ができる!
- <第4回>相続した空き家の実家を売却して賃貸マンションを2戸購入。資産の組み替え成功例!
- <第5回>現金を不動産に、経営は同族会社に。評価を下げて、財産を減らす相続対策成功例!
- <第6回>相続プランを作り、家族で相続対策に取り組もう!サポートは不動産実務家!
- <第7回>空き家状態の相続した実家を売却。その資金で区分マンション2戸購入し相続税を節税!
- <第8回>数よりも質。収益があがる不動産が財産となる
- <第9回>銀行預金だけでは危険!?相続時における節税対策とは
- <第10回>親任せにしたら財産は減るだけ!子供世代が対策しよう!
- <第11回>不動産を購入して、贈与すれば節税が加速する!
- <第12回>老人ホームに入るお金は残す必要がない!むしろ対策に使おう
ファイナンシャルプランナー
山口京子(やまぐちきょうこ)
住宅コンサルタント
野中清志(のなかきよし)