相続実務士 曽根 恵子(そね けいこ)
【相続実務士】の創始者として1万4,500件の相続相談に対処。(株)夢相続を運営し、感情面、経済面に配慮した”オーダーメード相続”を提案。”相続プラン”によって「家族の絆が深まる相続の実現」をサポートしている。出版書籍53冊、累計39万部出版、TV・ラジオ111回出演、新聞・雑誌取材協力425回、セミナー講師実績500回。(2019年5月時点) https://www.yume-souzoku.co.jp
相続は家族の絆が深まる機会になる
財産を残す人の考えひとつで、家族が幸せになれる財産となりメリットを生み出す一方で、負担になり、分けられない負の財産はデメリットになることもあります。また、相続の手続きでは、「家族の絆が深まる機会」になることもあれば、分割でもめてしまい「一生許さない絶縁のきっかけ」になることもあります。
だからこそ、相続で家族が大変にならないために、自分の意思で「自分の相続を用意しておく」ことが大切なのです。
そのためには、配慮のある生前対策をしておくことが必要になります。相続になっても残された人が円満に、不安なく、争わずに乗り切れるよう、”感情面”と”経済面”の両方に配慮しながら対策をしておくことで、相続の価値が高まります。家族で対策に取り組むことができれば、家族の絆が再確認できる機会にもなります。
「相続プラン」をサポートするのは不動産の実務家
相続は残された人が何とかするだろうではうまくいきません。元気なうちに、家族でコミュニケーションを取りながら、意思を生かした「相続プラン」を作って対策に取り組むことが大切です。
「相続プラン」は家族で決断することになりますが、一般的に相続対策はその多くが不動産に関連してくるため、相続対策の実務をサポートするのは、士業や銀行ではなく、不動産の実務家の役割になります。
「相続プラン」のポイント
まず、事前準備としては以下のような点に配慮して進めましょう。
事前準備1 →相続人の確認、状況の確認、把握をする
・家系図作成、相続人確認、相続税基礎控除の把握
・相続人の状況により対策は変わる
・状況を把握できれば深刻な対立や争いは防ぐことができる
事前準備2 →財産の確認、現地調査、評価、課題整理をする
・財産を確認、評価することで相続税も知っておく
・整理が必要なことはないか?(共有、担保、連帯保証など)
「相続プラン」対策としては、感情面と経済面でやるべきことが変わってきます。それぞれの意図を理解した上で、しっかりと対策を講じておきましょう。
感情面の対策1 →分けられる財産にする
・分けられないのでもめていく・・・もめたら節税もできない
・不動産がもめる要因のひとつ・・・共有だと課題が残る
感情面の対策2 →遺産分割を決めて遺言をつくる
・遺産分割でもめないためには遺言が必要・・・生前の用意で争いを残さない
・二次相続での分け方まで決めた内容にする・・・事前の了解を作っておく
経済面の対策1 →遺産分割代償金、納税資金を確保する
・他の相続人に遺産分割した代償金を払う・・・現金の捻出方法を用意する
・不動産を売却、換金しておく・・・利用しないときは処分を決断する
・生命保険を活用する・・・計画的に納税分を用意する
経済面の対策2 →積極的な節税対策をする
【贈与】配偶者の特例を利用する・・・自宅の贈与は2110万円まで無税
【贈与】現金、不動産を贈与する・・・生前に財産の前渡しをする
【建物】現金を建物に替える・・・建物評価は半分以下になる
【購入】現金で不動産を購入する・・・不動産で評価を下げる
【組替】土地を売却、賃貸不動産に買い替える・・・立地や形を変えて事業を継続する
【活用】土地に賃貸住宅を建てて賃貸事業をする・・・確実に節税できる
【法人】賃貸経営の会社をつくる・・・現金の資産増を回避する
積極的な節税対策のヒント
「相続プラン」対策で最重要となるのが上記の「経済面の対策2」の積極的な節税対策です。これらには過去の実績、現在の法制度を踏まえ、確実に効果が期待できる方法があります。
①評価を下げて収益を得る
土地を持っているだけでその土地からの収益がなければ、固定資産税や維持費がかかるばかりで持ち出しとなり、資産とは言えない状態で、相続税の節税効果はありません。多くの土地を持つよりも、形を替え、評価を下げて相続税を節税するとともに、収益があがる不動産として所有することが財産となります。
また、相続税の基礎控除がわかれば、それを基準として対策をするようにします。不動産が多い場合は、組み替えてコンパクトにします。預金が多い場合は、賃貸不動産を購入して評価を下げます。このように形を変えて、バランスを取るように対策をします。
②空き地のままにしておかない
空き地は、その土地から収益が生まれないため、固定資産税分の持ち出しとなっています。また、空き地は相続税の減額要素がありません。土地は建物を建てて住んだり、貸したりしないと評価が下がらないのです。
駐車場にして駐車料金が入っていたとしても、相続税は減らせません。駐車場には建物が建っておらず、更地ですので、空き地とおなじ100%評価で減額の要素はないのです。ただし、アスファルトや砂利敷きにした貸し駐車場であれば、貸付事業用小規模宅地等の特例を適用することができ、200㎡、50%の評価減を選択することが可能にはなります。
③空室のままでは効果はない
賃貸住宅でも入居者がいるか、サブリース契約をしていなければ、貸家評価にはなりません。家賃を受け取って、税務署に申告、納税をしていなければ貸家評価ができないということになります。空室には節税効果はないのです。
たとえば10室のうち入居者があるのが5室、残りの5室が空室となったままのアパートで、いずれ壊すつもりでリフォームもせず、募集もしていなかったと言う場合は、「貸家建付地」は敷地の半分となるのです。
④空き家のままでは負担になる
全国で空き家が増えて問題になり、平成27年2月に 「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空家対策特措法)が可決されました。老朽化して倒壊しそうな空き家や防犯上の不安が生じるような空き家に関しては、行政より解体命令が出せるようになったのです。そうなると、今まで建物が建っていれば、土地の固定資産税は6分の1とされていた優遇措置が撤廃されますので、固定資産税は一挙に6倍になります。
活用していない土地は建物の解体だけでなく、土地の処分や活用も検討する事が必要です。
⑤現金(預金)も持ち続けない
「預金」は、かつてない低金利となり利息がつきません。貯金が増える時代でもないのに貯め続けていると、相続になったとたんに貯めてきた「預金」にも相続税が課税されるため、納税のために減ってしまうという結末になります。さらに、最近の相続税の税務調査は預金調査が中心で、亡くなった人の名義だけでなく、家族名義の預金はほとんどが調査をされ、申告漏れがあると追徴課税されるのです。
このような状況からも財産を銀行預金で持つことは節税できないばかりか、方法を間違うと税務調査の対象にもなるのです。預金で持つことは安心とは言えず、リスクもあると考えなければなりません。これは、株式などの有価証券も同様だと言えます。
⑥生命保険の非課税枠は活用したい
生命保険の死亡保険金には、相続人1人につき500万円という非課税枠があり、その分は節税となります。ところが、年齢が高い方の場合、60歳くらいで保険の満期を迎えたあと、生命保険に入っていない方が多いようです。預金があるのであれば、70代でも80代でも、一時払いをすれば入れる生命保険がありますので、非課税枠は効果的に使い切ることがお勧めです。
以上、今回は相続対策について総括的にまとめてみました。「相続プラン」作りは相続対策として“損をしない”ためのものであることはもちろん、家族の絆を深めるためのものでもあります。そしてそれをもっとも的確にサポートできるのは不動産の実務家であることを忘れないでいただきたいと思います。
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