住宅コンサルタント 野中 清志(のなか きよし)
株式会社 オフィス野中 代表取締役。大手マンションディベロッパーの営業を経て、ワンルームマンションディベロッパーにて執行役員を歴任。2003年に株式会社オフィス野中を設立。 「お客様の立場に立った購入アドバイス」を実践し、不動産の豊富な知識と業界30年の経験を活かしたコンサルティングをおこなう。
●適温経済と不動産投資
最近よく適温経済という言葉を耳にします。インフレを起こすほど加熱せず、不況でデフレに落ち込むほど冷え込まず、つまりお風呂に例えると熱からずぬるからず、丁度心地よい湯加減のような状態です。
経済に置き換えると、金利もさほど変動せず、為替も安定し、そのような中で企業収益が上昇し、株価も上がっているような状態です。
国際通貨基金(IMF)が発表した最新の世界経済見通し(WEO)によると、世界経済の成長率は7年ぶりの高水準になると予想されています。
2018年と2019年の世界成長率も3.9%との見通しで、トランプ政権による法人税の減税により全世界で投資促進効果や企業業績の上昇が見込まれています。
リーマンショック前は原油価格も上昇し、金利も上昇し、その後、様々な新しい金融商品ができ、破綻した経緯があります。
現在の世界経済は1985年のプラザ合意後の動きとは異なります。当時はまず、アメリカの輸出企業を後押しするための「ドル安政策」を主要国が容認し、その後アメリカの経済の復活とともに日本からの輸出も増え、さらに新興国の経済も徐々に回復するという、そこには「時間差」がありました。
ところが現在は同時進行で景気の良さが進んでいるため、そこには「為替変動」も相対的に少なく安定しています。
またアメリカ法人については減税により収益も上がっていますが、民間会社員の給料はさほど上がっていません。その結果、消費者物価もさほど上がっていないので「金利も上昇しづらい環境」が続いているという背景があります。
日本においても同様のことが言え、給与所得が上がっても税金や社会保険料の負担が年々重くなっており、手取りが増えづらい環境にあります。そして年金受給者においても年金が上がりづらい環境にあります。
このように、企業にとって適温状態であっても、個人も適温という訳ではありませんので、個人も「投資」という選択肢がより求められています。特に毎月安定的な収益が見込める「不動産投資」の注目度が上がってきています。
●金融緩和の中、日銀が集めたお金はどこに向かったのか?
銀行が義務として預けなくてはいけない「公定準備預金額」を超えた分の一部については、日銀に0.1%の利息を払うという「マイナス金利」ルールがあります。つまり銀行がたくさん預金を集めても、企業などへの貸し出しをしないと逆に損をするシステムとなっています。
ところが企業は設備投資については全体的には及び腰であり、結果、金融庁が注視しているアパート向け融資を除いて不動産取引向けの融資が年々拡大傾向となっています。このように現在不動産業界は企業・個人ともに融資の面では非常に恵まれた状態にあるわけです。
ここで大事なのは潤沢な資金でやみくもに投資をすればいいというものではない事です。これからの時代は企業・個人とも投資先への厳しい着眼点がより求められる時代になるでしょう。
また今年は年始から日経平均株価も好調に推移していますが、その背景には日銀によるETF(上場投資信託)の購入がその安定を下支えしています。
今年は年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が不動産市場への投資も強化するとの事ですので、日銀が金融市場をコントロールするように、日本国民の年金資金も日本の不動産市場を支える構図がより鮮明化となっていく年になるでしょう。
●新しい物には棘(トゲ)がある?
昔から「美しいバラには棘がある」とよく言われます。近年では仮想通貨ビットコインが大きな話題となり、年々その市場規模も拡大していますが、セキュリティシステムの不備から巨額資金の不正流出が発覚し、投資家に不安が広がっています。
歴史は繰り返されると言いますが、世界初の投機バブルと言われている1600年代オランダの「チューリップ投資」、さらに大きく時代が変わりますが「サブプライム問題」、いずれも新しい投資システムでした。
特にサブプライムの場合は信用力の低い人に対する住宅ローンのことで返済能力を超えた融資がされました。それらの債権を金融機関が様々な債権にミックスして販売し、世界中に拡散しその破綻が大きな影響を与えた訳です。
つまりサブプライムにしろビットコインにしろ、新しい投資システムには必ず予想外のリスクがつきまとう訳です。その点、不動産投資は長い年月をかけて醸成された投資システムですので、安心感があります。
近年は「不動産と金融」の融合という時代が続いていますが、これからの時代は「ITプラス不動産」という時代の幕開けとなるでしょう。最近では契約においても遠隔地でできる「IT重説」やワンルームマンションも「IoTマンション」も出現しています。つまり独身の方でも自宅に帰って「ただいま」と言うと自動的に電気がついたり風呂が沸いたりと様々な意思の疎通が可能な物件も出現しています。この分野の成長性は市場でも非常に期待されています。
このように世界的な適温経済の中で投資しやすい環境はしばらく続き、また新しい分野での商品や企画が期待できますが、新しいシステムについては注意も必要です。
適温経済と言っても、経済は循環する訳です。一般的に景気指標としては「先行」「一致」「遅行」の三つに分かれます。今後企業業績がさらに上昇し、景気の先行きを示す「先行指標」である設備投資や人材の育成、社員の募集などの動きが高まってくれば、「遅行指標」である給与所得の伸びが期待できます。
それまでには当然の事ながら、時間差があり、いずれにしても経済の動向を読みつつ「自分自身の経済」を確立する意思がとても大切となると考えます。
2018年は自分の将来を見据えて「不動産投資」と向き合ういい機会になるのではないかと思います。
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