

国際認定テクニカルアナリスト 横山 利香(よこやま りか)
金融系出版社で記者・編集者の経験を活かし、国際テクニカルアナリストとして株式や不動産を中心に資産運用をテーマに執筆活動を行うほか、セミナー講師としても活動中。自身で投資初心者向けの投資勉強会「投資力向上委員会」を主宰しているほか、個人投資家向けにYouTubeチャンネルも運営中。不動産好きが講じて、DIY女子としての一面も持つ。 https://yokoyamarika.com/
【第3回】感染症の流行を機にDX化が進む不動産業界と、後押しするデジタル改革関連法
■行動制限によって苦境が続く不動産業界に押し寄せる新たな変化
「不動産投資を始めてみたい」と考える多くの人たちは、不動産を賃貸することで得られる安定的な家賃収入を期待していることでしょう。しかし、家賃収入は賃貸物件に入居者がいて受け取れるものであり、空室のままでは家賃収入を得ることはできません。
新型コロナウイルス感染症の流行で、世界中で経済活動が制限され、多くの人が行動の自粛を強いられました。自宅等で仕事を行うテレワーク(在宅ワーク)を行う人が増え、会社で仕事をするという概念そのものが新型コロナウイルス感染症によって変化し始めています。そのため、オフィス面積の縮小を決断した企業も多く、ビジネス街を中心に飲食店等を中心に多くのテナントが閉店を余儀なくされました。その一方で、立地のいい場所の空室をチャンスととらえ、新規出店を検討している企業がいる他、テレワークを行うには現在の住まいが手狭と考え、仕事環境を整えるためにもう少し広いお部屋に引っ越したいと考えている人もいるようです。
新型コロナウイルス感染症が流行する前は、現地まで行ってお部屋を見学し、気に入ったら申し込みを行うという流れが一般的でした。しかし、感染の拡大によって行動が制限され、現地まで行って内見を行うことに不安を感じる人が増える状況になりました。 空室を抱える大家さんとしては一日も早く入居者が決まってほしいのに、入居希望者がそもそもいない…。こうした状況を打破するために、不動産業界ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が押し進められています。
不動産業界はアナログというイメージがありますが、たとえば、空室物件の賃貸募集や販売不動産の販売情報をインターネットで公開し、WEB上で見学の予約をとることはすでに行われていました。新型コロナウイルス感染症が流行する前から不動産業務のデジタル化が進められていましたが、昨今、「重要事項説明書等の電子化」いわゆる「IT重説」が進められています。
■不動産業界のDX化を押し進めるデジタル改革関連法
2021年4月から、売買取引における「IT重説」の本格運用が開始されています。賃貸借契約と売買契約において、重要事項説明はテレビ会議システムやテレビ電話といったオンラインツールを活用することで実施することが可能です。ただし、現在は事前に相手の同意を得て同意書を作成し、事前に重要事項説明書を送付しておき、説明を受けた後に内容を確認して、記名押印する流れになっています。
国土交通省「ITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」より転載
国土交通省「宅建業法にかかるITを活用した重要事項説明等に関する取組み」より転載
現在はまだ紙が必要になっている状況ですが、5月に「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」(以下デジタル改革関連法)が成立し、交付されたました。宅地建物取引業法の改正も含まれているため、準備期間を経て1年以内に施行される予定となっています。改正が実施されると、これまで必要だった契約時の押印が廃止され、相手方も了承すれば、重説や契約書を紙で行わずに電子契約書で行うことができるようになるのです。
インターネットを使って入居者募集を行うようになってからは、まず写真や動画でお部屋を確認するという人が増え、様々な地域を超えた入居申込が入るようになってきたと感じている人も多くいるのではないかと思います。現状は紙での契約が必要になるわけですが、デジタル改革関連法が実施されると、電子契約書で契約ができるようになるのです。現時点では紙の契約書のほうが安心という声も多いとは思いますが、今後時間をかけて電子契約書等を中心に不動産の契約業務のオンライン化が徐々に普及していくことでしょう。たとえば、契約までの時間があまりない時にもこれまでは郵送でやりとりしていましたが、オンライン化が進めば、大家さん側も、入居者側もやりとりが少なくなって便利になることは間違いないので、不動産業者としては今のうちからDX化への対応を準備しておかなければならないでしょう。
■不動産業界向けのオンライン化システムサービスも充実
不動産に限らず、あらゆる契約業務をオンライン化するためには、電子契約サービスを利用しなければなりません。代表的な電子契約サービスとしては、弁護士ドットコム<6027>が提供する「クラウドサイン」や、GMOグローバルサイン・ホールディングス<3788>が提供する「GMOサイン」の他、米国企業のドキュサインが提供する電子署名サービスがあります。
ただ、不動産会社が行う業務は契約業務だけではありません。そのため、電子契約サービスだけを契約しても、不動産会社としてはDX化による恩恵は微々たるものでしょう。そこで、最近では、不動産業者間の物件流通や仲介支援、物件管理支援等もオンラインで行うことができるサービスも出はじめています。たとえば、不動産や施設を管理するクラウドサービスを提供しているプロパティデータバンク<4389>や、不動産業者向けに管理システムサービス「賃貸革命」の提供を行う日本情報クリエイト<4054>やいい生活<3796>等、オンライン化のシステム等を提供している企業は多くあります。今後もこの種のサービスは増えていくことが予想でき、不動産業界でのDX化は成長を続けていくでしょう。
最新のコラム

不動産エコノミスト
吉崎 誠二(よしざき せいじ)

ファイナンシャルプランナー
大竹 のり子(おおたけ のりこ)

国際認定テクニカルアナリスト
横山 利香(よこやま りか)
-
<第1回>ウッドショックで上昇基調を示した不動産市況と株式市場
-
<第2回>コロナショックでも堅調な状況が続く不動産市況とREIT市場
-
<第3回>感染症の流行を機にDX化が進む不動産業界と、後押しするデジタル改革関連法
-
<第4回>民法改正を機に活用が進む不動産賃貸業における保証業務とは
-
<第5回>オリンピックに向けて上昇が続いた不動産価格の今後の行方
-
<第6回>感染症の影響を受けて、住宅設備機器が品薄状態に!
-
<第7回>不動産業界で進むDX化を取り入れて、入居者に選ばれる物件になろう!
-
<第8回>世界的なインフレの到来に不動産で備えるということ
-
<第9回>米国のインフレがJ-REIT市場に与える影響
-
<第10回>不動産価格上昇で考える有望な不動産投資エリアと世代とは
-
<第11回>金利上昇時の不動産投資をどう考えるか
-
<第12回>不動産価格上昇時でも成功する不動産投資

不動産エコノミスト
吉崎 誠二(よしざき せいじ)
-
<第1回>新型コロナウイルスが不動産市場に与える影響は?~データで読み解く不動産市況①~
-
<第2回>ワンルームマンション投資意欲が伸び続ける理由~データで読み解く不動産市況②~
-
<第3回>コロナショックで見えた、ワンルームマンション投資の安定感
-
<第4回>首都圏投資マンション価格上昇はいつまで続くのか?
-
<第5回>賢く不動産投資ローンを借りる2大ポイント~不動産投資積極派が増えている~
-
<第6回>新型コロナウイルスの影響はどれくらいあったのか? 最新基準地価 東京23区の状況
-
<第7回>データで見る「Withコロナ期」の不動産市況
-
<第8回>2021年マンション投資を中心とした不動産市況予測
-
<第9回>東京の賃貸住宅需要を支える興味深いデータ
-
<第10回>不動産市況・マンション市況の好調がうかがえる3つの数字
-
<第11回>最新! 2021年公示地価を読み解く。21年後半はどうなる?
-
<第12回>コロナショックでも価格上昇が止まらない投資用マンション市場。不動産価格指数で解説
-
<第13回>データで解説!2000年から現在の新築投資用マンション市況の変遷と今後の見通し
-
<第14回>データで解説!ワンルーム&ファミリー物件の最新キャップレート分析
-
<第15回>区分マンション投資で、これだけは知っておきたい融資の事
-
<第16回>データで解説! 首都圏の新築投資用マンションの販売価格は今後どうなる?
-
<第17回>データで解説! 最新(23年分)の都道府県地価調査結果の分析
-
<第18回>データでみる!増える外国人居住者、賃貸住宅需要の下支えの構図
-
<第19回>データで解説! 「いまが買い時?」投資用マンション価格は今後も上昇の可能性あり?
-
<第20回>2024年の賃貸住宅投資市況の見通し—たとえ金利が上がっても影響は限定的?
-
<第21回>2040年までの将来人口見通し発表! 賃貸住宅投資は首都圏物件の一択?
-
<第22回>賃料上昇が投資マンション価格上昇分を吸収する?
-
<第23回>マイナス金利解除でマンション投資市況に変化はあるのか?
-
<第24回>「将来世帯推計」で見る、今後の賃貸住宅需要の変化

相続実務士
曽根恵子(そねけいこ)
-
<第1回>お手本にしたい!樹木希林さんの家族を幸せにする不動産、遺言書の相続術!
-
<第2回>3億円の財産が国のものに!おひとりさま、1人っ子は生きているうちに使おう!
-
<第3回>40代の夫が急死。保険金でマンションを購入、家賃収入で不安のない生活ができる!
-
<第4回>相続した空き家の実家を売却して賃貸マンションを2戸購入。資産の組み替え成功例!
-
<第5回>現金を不動産に、経営は同族会社に。評価を下げて、財産を減らす相続対策成功例!
-
<第6回>相続プランを作り、家族で相続対策に取り組もう!サポートは不動産実務家!
-
<第7回>空き家状態の相続した実家を売却。その資金で区分マンション2戸購入し相続税を節税!
-
<第8回>数よりも質。収益があがる不動産が財産となる
-
<第9回>銀行預金だけでは危険!?相続時における節税対策とは
-
<第10回>親任せにしたら財産は減るだけ!子供世代が対策しよう!
-
<第11回>不動産を購入して、贈与すれば節税が加速する!
-
<第12回>老人ホームに入るお金は残す必要がない!むしろ対策に使おう

ファイナンシャルプランナー
山口京子(やまぐちきょうこ)

住宅コンサルタント
野中清志(のなかきよし)