
住宅コンサルタント 野中 清志(のなか きよし)
株式会社 オフィス野中 代表取締役。大手マンションディベロッパーの営業を経て、ワンルームマンションディベロッパーにて執行役員を歴任。2003年に株式会社オフィス野中を設立。 「お客様の立場に立った購入アドバイス」を実践し、不動産の豊富な知識と業界30年の経験を活かしたコンサルティングをおこなう。
年金資産は分散投資されている
分散投資は古くからある投資の考え方で、投資対象を一つに絞るのではなく、様々に分散させることによってリスクを軽減する方法です。アセットアロケーション(資産配分)とも呼ばれます。
皆さんが払っていらっしゃる厚生年金や国民年金は世界最大の機関投資家でもあるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)によって運用されています。このGPIFでも分散投資が行われており、国内外の株や債券などに分散されています。これは「債券や株式のように、収益率の動きが異なる複数の資産に適切に分散して投資を行うことにより、長期的には、同じ収益率を見込む場合でも、よりリスクを抑える(収益率の変動幅を小さくする)ことができる」(GPIF「分散投資の基本的な考え方」より)との考え方からです。ですから皆さんの大切な年金資産は知らないうちに分散投資によって運用されていることになります。
さらにGPIFはREIT(不動産投資信託)を44銘柄所有(2015年3月末)しています。投資先はビルであったりホテルであったりマンションなどの住宅である訳です。
皆さんの中では、「まだ不動産投資はしたこともない」と言う方も多いと思われますが、実はこのGPIFを通じて不動産投資を既に「間接的」に行っている訳です。
GPIF 運用資産別の構成割合

<GPIF「平成28年度第3四半期運用状況」>
分散投資の中に4番バッターを作る
個人で投資・資産運用を行う際にも「分散投資」は有効な手段です。ただし単純に分散すればよい訳ではありません。野球で言うとところの「4番バッター」を作る必要があります。
今年のプロ野球ではセリーグが広島、パリーグでは楽天が好成績を残していますが、両チームの共通点は4番バッターがしっかりと実績を残し、チームをけん引している事です。つまり強い球団には主軸である4番バッターがしっかりと構えているのです。この4番バッターにように投資・資産運用にも主軸が必要となってきます。また一番バッター、二番バッターは対戦チームの投手によりオーダーを臨機応変に組み替えることもあるように、主軸以外の投資対象は情勢によって変えることもできます。
投資における4番バッターの条件とは
では投資の主軸となる4番バッターの条件は何でしょうか。これは第一に試合を欠場しないで、常にどっしりとその存在感を示すことです。
投資においては長期的に安定した収入(インカムゲイン)が得られる事が挙げられます。長寿社会に突入する中で、長期的な視点に立った投資計画が重要となってきているからです。また資産価値が変動しづらく、内的要因(金利の変動・インフレ)、外的要因(為替の変動)等に強い事も必要となってきます。
次に、いざという時にその存在感を示せる事です。ここ一番で打って欲しいという期待がある時に打てるバッターが4番バッターの条件です。
投資の場合は、定年退職して一定の収入が必要となった時や、病気や失業などで窮地に追い込まれた時などに確実に収益があれば心強いものです。
投資の主軸には長期安定した「不動産」を配置
こうした条件に適している投資として「不動産」が挙げられます。中でも1室から始めることができる「マンション投資」が適しているのではないでしょうか。これは不動産から得られる賃料は長期的にも極めて安定しており、景気の変動や為替等にも左右されづらいからです。
不動産投資は預貯金よりはリターンが多く、株よりはリスクが少ない「ミドルリスク・ミドルリターン」の商品であり、投資のメインとするのにふさわしいと言えます。
4番バッター以外では手元の流動資金、つまり現金や預貯金もとても大切です。その点ワンルームマンション投資は少ない自己資金で始めることがでるので、現金を温存するという意味での分散効果も生まれます。
また株や債券などと違って、ワンルームマンション投資はローンが利用できるので少ない資金で始めることができる事もメリットです。株や債券でも「信用取引」といって自己資金の何倍もの取引ができる場合もありますが、これはリスクが大きく初めての方にはお勧めできません。
マンション投資にも分散投資の考え方を導入
分散投資を実際にマンション投資の中に当てはめて考えてみましょう。
マンション投資を行う際に投資資金を1戸のマンションに限定して投資すると、空室になった場合に収入がゼロになってしまいますが、2戸のマンションに分散して投資した場合は、一つのマンションが空室になってももう一つのマンションからの収入があるので、リスクは半分に抑えられると言えます。
また資産価値が下落したり、建物の劣化などのトラブルなどがあった場合にも、投資先が複数あると、その分リスクも分散されると言えます。
マンション投資を複数戸にすることでリスクを分散
現在低金利が続いており、ローンを利用してマンション投資を始めやすい環境となってきています。そこで既に1戸を購入されていた方が、さらに2戸目を購入されるケースも多くなっています。これは資産を2戸に分散投資をしていると言えます。
また4000万円の投資枠がある場合には、4000万円のマンションに投資するのではなく、2000万円のマンション2戸に分散した方がリスクが低いと言えます。
このようにマンション投資の対象を複数に分けることでリスクを分散します。またいずれの物件からも家賃収入が得られるので、対象物件が多いほど収入が多くなり、リターンも多くなります。
投資するマンションのエリア・立地条件を分散(地域的分散)
マンション投資のエリアや立地条件などを分散する事でリスクを軽減する事ができます。
現在首都圏では東京オリンピックに向けて様々な開発が進められており、例えば「東京」駅周辺は国際金融特区構想、「品川」エリアはアジアのゲイトウエイとして大きく変貌を遂げるエリアとして注目されています。また「羽田空港」に近いエリアも非常に注目度が高まり、「渋谷」エリアは大型の再開発がいくつも進められています。
このように今後成長性が高いエリアを選択してそのようなエリアにアクセスしやすい立地を組み合わせて投資するのも一つの方法ではないでしょうか。
都心のビジネス街に近い、または行きやすいエリア、大学へアクセスのよいエリア、熟成して人気のある住宅街、再開発が進む将来性のある街など投資に有望なスポットの条件は様々ですが、それらを組み合わせることによって分散投資の効果が出てきます。
但し交通の便が悪く将来性も少ないエリアでは、いくら利回りが高くても投資はおすすめできません。条件は違ってもそれぞれ優良な物件を組み合わせることが必要となります。
マンション投資の時期を分散(時間的分散)
マンション市場は経済の動きによって大きく変動します。地価・建築費・マンション価格から金利や不動産税制などもその時々によって大きく変化します。こうしたことから、時期をずらしてワンルームマンションを購入する事により、リスクを分散できるケースもあります。
不動産価格が高い時期に投資マンションを購入した場合は、価格が下がった時期に追加で購入すれば、平均価格は下がります。
また新築の場合は竣工時期をずらすことで入居時期をずらすこともできます。入居時期が同じの場合は、複数戸同時に退去という例もあります。竣工年が違うことで修繕費用の発生などもずらすことができます。
ただし不動産業界には買い時がある訳ですが、低金利、地価が上昇トレンドなどにあり、街(エリア)の将来性が上昇する過程においては、ある程度まとまった投資をしても良いと考えられるケースもあります。
マンション投資の資金計画を分散
マンション投資の資金計画にも、ローンを利用したり、一括で現金で購入したりと様々な選択肢があります。これらの資金計画を組み合わせることもできます。
ローンの返済期間を変えて物件ごとの返済終了時期を変えたり、またローン購入と現金購入を組み合わせることもできます。
投資用マンションを2戸購入する場合に、借入金の返済期間をそれぞれ30年と20年とすると、20年経過時点で1戸目のローンが終わり、その家賃収入をすべてもう1戸のローンの元金返済に充てれば、返済を早く終わらせる事も可能となります。
現金で不動産投資資金がある場合、現金だけでなく、ローンを組み合わせて投資をすることも可能です。
あるお客様は自己資金が4000万円あり、年収が1000万円ある40代の会社役員の方でした。当初は4000万円の現金で都心のワンルームマンションを1戸購入とのご意向でしたが、まだ年齢的にも若く年収も高い方なので、複数住戸の購入を提案させて頂きました。
4,000万円のワンルームマンションを2戸購入し、それぞれ自己資金が2000万円、2000万円をローンにしました。自己資金が50%となると、当然のことながらローンよりも家賃収入の方が多くなるので、プラスの部分を繰り上げ返済資金に回せばローンも極めて短い期間で完済できる訳です。
このように投資資金を分散・組み合わせすることにより、投資効率が増すだけではなく、早くローンを返せるという効果も生み出せるわけです。
長期的に安定収入を得るために
マンション投資を始める方は、将来のための長期・安定した収入(インカムゲイン)を得ることが目的となると思います。
現在都心部ではマンション価格も上昇しており、資産価値の増大から売却益(キャピタルゲイン)目的のケースも散見されるようになってきました。しかしマンションを売却してしまったら家賃収入は得られません。売却収入も一時的なものとなります。長期的に資産価値の安定したマンションを複数戸、条件を変えて所有することがマンション投資の成功のポイントの一つと言えます。
また資産の運用も重要ですが、ご自身の「健康」にも十分気をつける必要があります。資産運用や経済動向などに注視するのと同様、定期的な健康診断など健康管理にも留意し、資産と健康のバランスのとれた投資を行うことが重要となってきます。
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