
相続実務士 曽根 恵子(そね けいこ)
【相続実務士】の創始者として1万4,500件の相続相談に対処。(株)夢相続を運営し、感情面、経済面に配慮した”オーダーメード相続”を提案。”相続プラン”によって「家族の絆が深まる相続の実現」をサポートしている。出版書籍53冊、累計39万部出版、TV・ラジオ111回出演、新聞・雑誌取材協力425回、セミナー講師実績500回。(2019年5月時点) https://www.yume-souzoku.co.jp
今回は、実際の相続相談のなかで、特に不動産投資によって諸問題を解決した事例をご紹介します。
40代の夫が倒れて急死
Tさんの夫は40代。サラリーマン生活20年を過ぎた働き盛りの年代でした。学生時代の同級生で、結婚してから15年。中学生と小学生の二人の子供に恵まれて幸せな生活を送っていました。下の子どもが小学校高学年になったので、子育ても楽になり、専業主婦だったTさんもパートとして仕事を再開しようと探し始めた頃でした。
いままで体の不調を訴えたこともない夫が、仕事中に突然倒れて病院に救急搬送されたのです。くも膜下出血ということで、夫の職場から連絡を受けたTさんが病院に駆けつけた時には、夫はすでに息を引き取ったあとだったといいます。
二人の子どもも未成年ですので、Tさんは専業主婦として夫の扶養家族でした。今後、どうすればいいのかとても不安になり、相談に来られたのです。
ローンがなくなり、生命保険も下りた
幸い、住んでいるマンションは夫が住宅ローンを組んで購入していましたので、団体信用生命保険が下りて、それで住宅ローンは全て返済できました。
それだけでなく、夫は在職中に亡くなったため、会社から退職金を受け取ることができ、さらに、会社で団体生命保険に入っていたことから、合わせて1億円ものまとまった現金を相続することができたのです。相続税の申告は必要でしたが、配偶者の特例などが使えて相続税の納税は不要でした。
預金が減るのが不安
自宅のローンがなくなったことで気持ちは楽になりましたが、夫が残してくれた財産で今後の生活の基盤をつくり、生活をしていかなくてはなりません。夫の代わりにフルで仕事をしたいところですが、まだ子供は未成年なのでフルタイムで働くことはできません。
落ち着いたら仕事を探すということでした。
Tさんは、生命保険が入ったとはいうものの、預金を切り崩していくといずれ底をついてしまうのではという不安があると言われます。将来の自分の相続のことも考えると対策をしておきたいという気持ちでした。
ちなみに、資産の組み替えなどをせず、そのままでいるとTさんの相続のときの相続税を試算すると1480万円となりました。
対策の提案
[対策1]収入を確保するため、賃貸不動産を購入
預金のままではほとんど利息がつかないため、賃貸不動産を購入するよう提案をしました。毎月の家賃が入ることで安定収入となり、フルで仕事ができないとしても不安はなくなります。Tさんはすぐに決断され、長期に資産保有することを考えて人気のあるエリアを選択して購入しました。
2800万円と3000万円の物件、2戸で月額の家賃は22万円、管理費、修繕積立金を引いた手取りは約18万円となります。
[対策2]不動産は資産価値のあるものを複数購入
二人の子どもが将来の相続でもめることのないよう、区分マンションを2戸購入しました。資産を分けられるように配慮し、将来も流通しやすい金額の物件を購入することで売却もしやすくしました。
財産を不動産にしておくことは相続税の節税だけでなく、家賃収入のある財産を渡せることで受け取る側にもメリットがあります。
また、需要の多い単身者用のコンパクトな物件にしておけば、市場性があり、売却するときも不安はありません。
定期的な家賃収入を得ながら節税対策ができ、遺産分割の対策にもなったことでTさんの不安は解消できたのです。
[対策3]生命保険に加入し非課税枠を適用する
Tさんは夫が亡くなるまでは扶養家族でしたので、自分ではまとまった生命保険には入っていませんでした。そこで、二人の子供がそれぞれ1000万円の生命保険を受け取れるように一時払いの生命保険に加入しました。
保険金は月払いや年払いではなく、一括で支払っておくことができます。そうすると定期預金などで持つよりも保険の保証が得られて、将来は定期預金よりもいい利回りで受け取ることができます。
相続税の非課税枠は1人につき500万円ですので、2人で1000万円は非課税となり節税効果が得られます。それ以上の死亡保険金については相続税の課税対象になりますが、定期預金よりも保証と利回りのメリットがあることで多めにかけておきます。
Tさんは、このように不動産と保険の対策を同時に決断されましたので、家賃収入を得ながら節税ができたのです。
まとまった現金を保有していても利息が増えないばかりか、相続ではそのままの評価となり、相続税がかかります。現金で不動産を購入することにより評価が下がり、相続税の基礎控除内の財産額になりました。そのうえ、家賃収入が入り、生活費として使えますので、不動産を維持しながら節税対策ができたということになります。
財産の一部は家賃の入る不動産で所有することが節税対策の定番でもあり、資産価値を維持する方法でもあります。
Tさんはまだ40代ですので、今後、子供の成長やご自分の生活に合わせて資産の持ち方や対策を見直す必要があります。そうして徐々に、より安定した資産や収入にしていくことができます。
[ご家族の状況]
[ご家族の状況]
○Tさん(女性・40才代) ・職業 主婦
○家族関係 配偶者(本人)、長男(未成年)、次男(未成年)
○財産の内容 自宅、預金(夫から相続した退職金、生命保険)
[Tさんの相続税予想額]
夫から相続した財産を子供が相続するときのこと
○相続財産 1億3600万円(自宅、退職金、生命保険)
○基礎控除(相続人2人) 4200万円
○課税価格 9400万円
○相続税予想額 1480万円(①)
[対策後の相続税予想額]
○賃貸不動産の購入 ▲5800万円 購入資金
○資産増 +1740万円 マンション増加
○生命保険非課税枠 ▲1000万円
【合計】6800万円の評価減
○対策後の課税価格 8540万円
○基礎控除(相続人2人) 4200万円
○課税価格 4340万円
○相続税予想額 551万円(②)
【節税額】 929万円(①-②)
※相続税額は小規模宅地等の特例の考慮前のものです
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